数学道場、総合案内
line decor
 
line decor
日本文学編に戻る
名曲を聴きながら
名作を読んでください
line decor
読書感想文
 
ジョン・キャスティ 中村和幸訳「20世紀を動かした五つの大定理」を読む

 数学の定理の中で最も有名なのはピタゴラスの定理であろう。ピタゴラスの定理は別名三平方の定理ともいう。この定理は数学に興味のない人でも知っているのではないか。
 ピタゴラスの定理は直角三角形に関する定理で、この定理を知っていると直角を正確に作ることができる。江戸時代の大工はピタゴラスの定理の名前は知らなくても、この定理の内容は知っており、正確な直角を作り出すことができた。ピタゴラスの定理は応用範囲が広く、数学のいろいろな分野で利用される。だからこそ、この定理は重要でかつ人気があるのだ。
 ピタゴラスの定理のほかにも数学にはたくさんの定理がある。現在では1年間に20万もの定理が発見されるという。数学者の仕事は定理を発見することだから、新しい定理がぞくぞくと発見されるのは当たり前のことである。だが、定理がたくさん発見されたからといって、すべてが価値ある定理とは限らない。はっきりいって、ほとんどがどうでもいいような定理ではなかろうか。
 定理とは真である命題をいう。定理と認定されるのは、まずその命題が真であることが証明されなければならない。証明されてはじめて定理になる。一旦定理と認められると、遠慮なくこの定理を使うことができる。Aという定理を用いてBという定理を証明し、そしてBという定理を用いてCという定理を証明するというふうに定理が定理を呼び、数学が進歩していく。
 証明されないけれども真でありそうな命題を予想という。<リーマン予想>は未だに証明されていない、将来定理となりうる命題といえる。
 新しい定理を導くのに、必要な定理が重要な定理ということになる。ピタゴラスの定理からは数えられないくらいほどの定理が生まれた。重要な定理というのは、応用性がなくてはならない。ある定理が発見されても、その定理にほかの定理を導くための応用性がなければ、やはりその定理はたいしたものではない。
 それでは一体、20世紀に発見された膨大な定理の中で重要な定理はあったのだろうか。
 ジョン・キャスティの「20世紀を動かした五つの大定理」は20世紀に発見された定理のうちで、特に重要といわれた5つの大定理について述べたものである。
 さすがに、20世紀に発見された大定理だけあって、難解なものであるが、これらの定理がどのように利用されているかがわかりやすく解説されている。たいへん興味深い。5つの大定理とは次の定理である。
1 ミニマックス定理      2 不動点定理      3 モースの定理
4 停止定理            5 最適化理論
  19世紀までの数学は自然科学に応用されるだけであったが、20世紀になると経済学などの社会科学にも応用されるようになった。また、戦後、コンピュータが一般社会にも普及し発展したが、それは数学の進歩があったからである。これらのことが5つの定理にも反映されている。
  ミニマックス定理はゲーム理論に関しての定理である。ゲーム理論は現在の経済学にはなくてはならない理論であり、政治学でも利用される。勝者になるためには絶対に必要な理論だといわれている。
  不動点定理はトポロジーに関する定理であるが、この定理も経済学と密接につながっている。モースの定理は点に関する定理で、関数についてのものである。停止定理はコンピュータに関する定理で、この定理が証明されたことで、コンピュータが飛躍的に発展したのである。
  最適化理論は限られた資源で、最大の効果をあげるための方法に関する理論である。高等学校の数学で線形計画法といわれる理論を深くしたものである。この理論は経営学・経済学ではたいへん重要な理論である。

 21世紀になった今日でも、日々、新らしい定理が発見されている。世界を一変させるような大定理が発見されたらと思う。

 
ジョン・L・カスティ著 寺嶋英志訳「プリンストン高等研究所物語」を読む

 プリンストン高等研究所は世界最高の頭脳が集まる研究所として有名である。相対性理論のアインシュタインもこの研究所の教授であった。教授といっても授業はしない。研究所には学生はいないからだ。プリンストン高等研究所はまさに研究だけのための機関である。
 プリンストン高等研究所には自然科学・数学・社会科学・歴史学の4つの部門がある。特に、物理学と数学の研究が有名である。
 物理学にはアインシュタイン、マンハッタン計画を主導したオッペンハイマー、数学では不完全性定理のゲーデル、コンピュータを開発したノイマンがいた。
 日本人では、物理学の湯川秀樹、数学の小平邦彦が研究員として在籍していた。湯川はノーベル物理学賞、小平は数学のノーベル賞といわれているフィールズ賞を受賞している。プリンストン高等研究所の研究員になるということは、研究者として世界トップクラスであることの証明である。

 

 ジョン・L・カスティ著、寺嶋英志訳「プリンストン高等研究所物語」はアインシュタイン、ノイマン、ゲーデル、オッペンハイマーを主要な登場人物としたある時期の研究所の物語である。
 物語は大きく2つの主題からなっている。1つはゲーデルの教授昇進の問題、もう1つはノイマンのコンピュータ開発を研究所として認めるかどうかであった。
 ゲーデルは論理学者であったが、20世紀を代表する大数学者でもあった。彼は不完全性定理を発見した。この定理は数学界に驚天動地の衝撃を与えた。この定理は、<すべての数学的命題が論理的演繹によって証明もしくは否定することができるという考え方に異議を唱える>ものであった。
 命題とはかならず真か偽かを証明できるものである。だが、ゲーデルにいわせると、数学の公理から導いていくと、真とも偽とも証明できない命題が存在する。よく引き合いに出されるのが、<「クレタ島に住む人間はみんなうそつきである」とクレタ島に住む人間が言った。はたしてクレタ島に住む人間はうそつきか?>という問題である。この問題に正解はない。数学にはこれに似たような命題が存在する。ゲーデルはこれらを体系的に考えたのである。
 ゲーデルは自ら考え出した定理によって、カントールの連続体仮説の真偽は集合論の公理から独立していることを示した。すなわち、現在の公理的集合論の枠組みの中では、連続体仮説は正しいとも間違っているとも決定できないということである。
 ゲーデルは研究所の終身研究員ではあったが、教授ではなかった。ゲーデルにとっては、このことが不満であった。彼は教授になれないということは、自分の業績を研究所の人間たちは認めていないことだと論理的に考えたのである。結局、ノイマンの強い推薦があって、ゲーデルは教授に昇進した。
 ノイマンは高性能な計算機すなわちコンピュータの必要性を痛感し、自らコンピュータを作り出そうとしていた。ところが、研究所は伝統的に、応用的な研究はしないことになっていた。コンピュータ開発はまさに工学の応用だと思われていたのである。研究所は雰囲気的にノイマンのコンピュータ開発を許そうとしなかった。
 ノイマンはコンピュータの必要性と、コンピュータを使うことによって科学がより進歩することを研究所の評議員たちに訴えた。結果的に、研究所はノイマンのコンピュータ開発を許可した。これによって、現代のコンピュータ社会が実現したわけである。

 ゲーデルが教授になることに執着したことは意外であるが、ゲーデルという大天才にも人間の俗っぽさがあったというのはどこか愉快である。
 歴史に名を残す偉大な天才たちもいろいろと悩んでいたようである。

 
作文道場ジョン・キャスティ(John L. Casti)。
ウィーン工科大学教授で、複雑系の研究のメッカであるサンタ・フェ研究所の教授を兼任する。著書として「パラダイムの迷言」(白揚社)、編書として「現実の脳 人工の心」(共立出版)ほかがある。ゲーム理論が専門で、数理モデルを得意とする。(講談社「20世紀を動かした五つの大定理」より引用。)
読本プレゼント
line decor
株式会社河野 株式会社河野 Net個人指導道場
Copyright © 2007-2011 KOHNO.Corp All Rights Reserved.