数学道場、総合案内
line decor
 
line decor
はじめに
日本文学編に戻る
 
line decor
読書感想文
 
アルベール・カミュ「異邦人」(フランス)を読む

 私が大学生の頃、思想界そして文学界において、実存主義なるものが華やかであった。多くの人たちが実存主義とは何かをよく理解もせずに、実存主義を振りかざして文学を論じた。滑稽の極みである。
 実存主義といえばサルトルとカミュである。そのため、文学を論じるとやたらにこの2人の名前がでてくる。うんざりするほどサルトルとカミュであり、大江健三郎の作品を論じる前にはなぜかサルトルを読まなければならないようになっていた。
 私はサルトルとカミュの名前が出ると肩身の狭い思いがした。私は2人の作家の作品を1作たりとも読んでいなかったからだ。早速読んでみた。カミュの作品で初めて読んだのが「異邦人」であった。「異邦人」はカミュの処女作で、そのときには世界文学の古典になっていた。カミュは戦後まもなく44歳という若さでノーベル文学賞を受賞している。
 私は期待に胸躍らせて「異邦人」を読んだ。が、正直、ストーリーは簡単であったが、主題が何か全くわからない小説であった。当然感動はしなかった。私には理解できない小説だと思った。実存主義が何ぞやということもむろんわからなかった。ただし、作品が深い思想を内包しており、その思想にどこか惹きつけられる感じがした。
 「異邦人」に感動したのは40歳を超えたときである。学生時代に読んだときとはまったく別の作品になっていた。何に感動したかというと<人間は本来は不条理な生き物である>ということを実感できたからである。学生時代の私には<人間の不条理>について気がつかなかったのであろう。人を殺すときには、やはりそれなりの動機・理由が必要なのであると思っていた。長い間、世の中で生きていくと、だんだん人間が不条理なものであることがわかってくるからであろう。

 「異邦人」の主人公はムルソーという海運会社に勤める若い事務員である。この男は夢とか希望とかいうものにはまったく縁がなかった。本質的に生理的欲求意外の欲求をもっていなかった。何となく目標もなく生きているという感じである。
 ムルソーは海岸の町に住んでいる。燦燦と輝く太陽の光とまぶしいばかりの海の青さだけが彼にとって居心地のよいものであった。
 ムルソーの母親は養老院にいた。物語は母親が死んだという知らせをムルソーが受け取るところから始まる。
 ムルソーはすぐに養老院に駆けつけ、葬式をすぐにすました。葬式の間に、ムルソーは1滴の涙もこぼさなかった。ムルソーはそそくさと葬式をとり行い、再び海岸の町に帰って、海水浴に行った。そこで、ムルソーは昔の会社の同僚であるマリイと再会し、恋人関係になり、情交を重ねた。ムルソーは母親の葬式の翌日に女を抱いたことになる。
 マリイはムルソーを愛するようになり、ムルソーに結婚してくれと頼んだ。ムルソーはただ流されるままに承諾した。ムルソーはマリイを愛していたわけではなかった。ただ彼女の肉体は欲しかった。
 ムルソーをとりまく数少ない人間たちの1人にレエモンという女衒(ぜげん)がいた。レエモンはある女と問題を起こし、その女の兄弟から狙われていた。その兄弟はアラビア人であった。1度レエモンとムルソーは町中で、アラビア人たちと喧嘩をした。
 ある日、ムルソーが散歩をしていると、偶然アラビア人の1人と出会った。アラビア人はナイフを取り出したが、ムルソーは拳銃を取り出し彼を撃った。アラビア人は死んだ。 ムルソーは裁判にかけられた。陪審員による判決であった。結果は、予想に反して死刑であった。検事がムルソーの母親が死んだときの態度を責め、ムルソーをとんでもない異邦人に仕立てるのに成功したからである。
 物語はムルソーが1日1日と死を待つところで終わる。

 ムルソーは殺した理由を太陽のせいではないかと思ったこともあるが、本人にはわからなかった。むろん殺すほど相手を憎んでいたわけではなかった。
 今回「異邦人」を読み返して、私ははっとした。それは、死を待つムルソーが生まれて初めて幸福感に浸されるのである。と同時に、ムルソーは孤独ではなくなった。私はこのムルソーの高揚感が実感できた。人間の幸福とは生きる時間とは何の因果関係もないというのも「異邦人」の1つの隠された思想なのであろう。
 「異邦人」は読みやすく、そして難解な名作である。

 
作文道場アルベール・カミュ。 1913年- 1960年。
アルジェリア生まれ。フランス人入植者の父が幼時に戦死。不自由な子供時代を送る。高等中学の師の影響で文学に目覚める。アルジェリア大学卒業後、新聞記者となり、第二次世界大戦は反戦記事を書き活躍する。1942年「異邦人」が絶賛される。1957年ノーベル文学書受賞。(新潮文庫引用。)
読書感想文・小論文の添削は作文道場へ
line decor
株式会社河野 株式会社河野 Net個人指導道場
Copyright © 2007-2010 KOHNO.Corp All Rights Reserved.