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読書感想文
 
ウィリアム・サマセット・モーム「月と六ペンス」(イギリス)を読む

 モームの「月と六ペンス」はたいへんおもしろい小説である。一気に読ませてくれる。やはりゴーギャンをイメージした主人公ストリックランドの奇想天外な人生を描いているからであろう。また、この作品はおもしろいだけではない。深い感動も与えてくれる。人間の魂の叫びを聞いたときの感動である。私はこの作品を読んではっきりと人間の魂の叫びを聞いた。
 人間の魂の叫びを最も崇高な形で表したものが芸術であろう。セザンヌ・ゴッホ・ゴーギャンそしてトルストイ・フロベール・ランボーにしても彼らの創作物は人間の魂の叫びなのだ。「月と六ペンス」は人間の魂の叫びをゴーギャンの人生とモーム自身の人生を振り返って表現したものといえる。その具体的なものがストリックランドの人生であり、彼の描く絵である。
 「月と六ペンス」の題名は非常に象徴的である。月は崇高で価値のあるもの、六ペンスは価値の低いものと私は解釈した。

 「月と六ペンス」は小説家である「僕」の語りで進められる。「僕」はすでに死んでしまった天才といわれている画家ストリックランドの人生について語っていく。
 「僕」はストリックランドと知り合いであった。もともとはストリックランドの奥さんと知り合いで、ある事件をきっかけにして「僕」はストリックランドと交友を深めることになった。
 ある事件とはストリックランドが失踪したことである。ストリックランド夫妻は仲睦まじかった。結婚して10数年たっていた。夫のストリックランドは株屋で、株売買の会社を共同経営していた。夫婦の間には男の子と女の子1人ずつ2人の子があった。傍目にはたいへん幸福な家庭に見えた。
 ストリックランドは突然失踪した。ミセス・ストリックランドは深く沈み、「僕」にストリックランドを連れ戻すように懇願した。ストリックランドは共同経営者に手紙を出していた。それで彼がパリにいることがわかったのである。ストリックランドは居酒屋の蓮っ葉女と駆け落ちしたと回りのものたちはうわさした。
 「僕」はパリに向かい、ストリックランドに会った。彼は場末の安宿に泊まっていた。女はいなかった。「僕」はストリックランドに家に帰れと説得したが、彼は応じなかった。彼はこれから絵を描いていくつもりだといった。「僕」は唖然とした。
 ストリックランドには一般人のもつ常識は通じなかった。ストリックランドの生活は絵を描くことに集中された。絵を描くこと以外にストリックランドの興味をそそるものはなかった。病気になって自分を介護してくれた親切な夫婦の仲を引き裂き、その妻と平然と同棲した。その妻はストリックランドの裸婦の絵のモデルになったがすぐに捨てられる。そして彼女は自殺してしまう。彼女の自殺を聞かされてもストリックランドは動じなかった。「僕」はパリに住み、たびたびストリックランドと会ったが、いつしか彼と会わなくなってしまう。
 ストリックランドは既に死に、死後大天才と誉めそやされた。彼の絵には途方もない値段がつけられた。「僕」は自分が最後にストリックランドに会ってからの彼の人生に起こったことを知るべく、南太平洋のタヒチへと向かった。そこで「僕」はパリ時代以後のストリックランドの生活を知ることができた。
 ストリックランドは着の身着のままパリを出て、いくつかの都市を放浪したあげく最終的にタヒチに落ち着いた。ストリックランドはタヒチを終の棲家にしようとした。彼は30歳近く離れた島の娘と結婚した。娘の名はアタといった。アタは深くストリックランドを愛した。ストリックランドは絵を描いて幸福なときを過ごしたがライ病になってしまう。 ストリックランドの最後の仕事は自分の住む部屋の壁と天井に絵を描くことであった。その絵を描くことが彼の人生の目標であった。絵が描かれると、ストリックランドは目標に到達したもののみが感ずる満足感をもってこの世を去った。遺言として自分が死んだら家を燃やせとアタに命じていた。そのためその絵を見たものはストリックランドが死んだ直後にやってきた医者とアタとその息子しかいなかった。医者の話によると、その絵はローマの大聖堂の壁に描かれたミケランジェロの絵とは違った感動を与えてくれ、そして魂が大きく揺さぶられる傑作であった。

 ストリックランドが部屋の壁に描いた絵はどんなものであったのだろうか。おそらくそれは人間の魂の本当の叫びだったのであろう。
 「月と六ペンス」は偉大なる芸術家の不可思議ではあるがどこか共感できる人生を描いた不朽の名作である。

 
作文道場ウィリアム・サマセット・モーム
1874年 - 1965年。フランス生まれ。10歳で孤児。その後医者になり第一次世界大戦に従軍医師となる。イギリスに渡って「月と六ペンス」で注目を浴びる。「人間の絆」「お菓子とビール」「雨」「赤毛」、戯曲「おえら方」らの作品を残している。
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