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読書感想文
 
小林多喜二「蟹工船」を読む

 北海道小樽が生んだ文学者といえば伊藤整と小林多喜二である。
 伊藤整の作品に「海の見える町」という随筆がある。海の見える町とは小樽のことで、伊藤はこの随筆に中学生のときの回想を書いている。伊藤(1905年生まれ)と小林(1903年生まれ)は2歳違いで、同時期に中等教育を受けた。伊藤は小樽中学、小林は小樽商業学校に通った。2人とも文学青年で、中央の文芸雑誌に詩などを投稿していた。伊藤の投稿作品はたまに雑誌に掲載された。当然天にも昇る気持であった。だが、伊藤以外の小樽の人間でその人の投稿された詩がしょっちゅう雑誌に掲載された。その人こそ小林多喜二であった。伊藤は学校へ通う途中、よく小林を目にしていたのである。以来、伊藤はライバル心みたいなものを小林に対して抱く。そして小林のことを伊藤は終生思い続けた。
 伊藤も小林も小樽高等商業(今の小樽商科大学)に進む。小林は伊藤の先輩にあたる。小林は卒業すると北海道拓殖銀行に就職し、伊藤はさらに勉学に励むために東京高等商業(今の一橋大学)に進む。
 「海の見える町」は高校の教科書に載っていた。私にはこの随筆が非常に印象に残っている。伊藤整と小林多喜二という文学者が私の脳裏に焼きつけられた。その後、伊藤整という文学者は私にとって特別な人になった。伊藤整は私の文学の師匠の1人だと私は勝手に思っている。私は伊藤の作品を読むたびに小林多喜二のことを思った。

 私はプロレタリア文学というものをほとんど読んだことがない。どうしても読もうという気持が起こらなかった。なぜか。プロレタリア文学が「理論」という型にはめられて作られていると思ったからだ。資本家と労働者の対立がまず存在し、資本家は搾取するもので労働者さ搾取されるものだと設定される。はたしてこんな設定のもとで芸術作品は作られるのであろうか。ソ連時代、優れた文学作品は生み出されていない。唯一優れたものといえば反体制作家のソルジェニッティンのものだけである。
 ディケンズ・ドストエフスキー・ゴーリキー・ゾラなど貧しい労働者たちのことを書いているが、それらの作品をプロレタリア文学だと私は全く思わない。実際、プロレタリア文学などというものは現在ではほとんど残っていない。
 プロレタリア文学といわれているもので唯一現在でも読み継がれているのが小林多喜二の「蟹工船」である。
 私はプロレタリア文学に対する不信で気にはしながらもなかなか「蟹工船」を読まなかった。「蟹工船」を読んだのはもう40歳を超えてからである。一読したあと、ある程度予想された作品ではあったが、作者小林の才能には脱帽した。やはり、伊藤整は小林の才能を見抜いていたのだと思った。
 小林は29歳のとき、非合法活動で特高(特別高等警察)につかまり、獄中で拷問死している。小林は共産主義者として殺されたのである。

 「蟹工船」は蟹工船博光丸の地獄の日々を描いたものである。蟹工船はカムサッカ近くまで進出し、蟹をとってそれを船の中で缶詰にする船である。蟹工船の中で働く労働者すなわち漁夫・雑役夫たちは全国から季節労働者としてかき集められた。東北出身者が多くしめた。彼らは貧しい農民・漁師・土方・学生などであった。
 労働者たちは資本家の手先となった監督の淺川から人間的扱いを受けなかった。ゴキブリ以下の扱いを受けた。労働者には生きる権利すらなかった。残業はやらせられ放題、病気になってもほっとかれそのまま死んでいく。死んだらカムサッカの冷たい海に沈められた。淺川はピストルをつねにもち、いつでも労働者たちに発砲できると脅した。
 いくらかの労働者たちはストライキを起こそうとするが、味方だと思っていた駆逐艦の兵隊に逆につかまってしまう。
 「蟹工船」はこの世の生き地獄をするどい筆致で描いている。

 なぜプロレタリア文学の中で「蟹工船」だけが長く読み継がれたいるのか。やはり「蟹工船」は労働者と資本家の対立という枠を超えて人間の悲哀が描かれているからであろう。その悲哀を象徴するのが労働者たちの使う東北弁である。この東北弁が「蟹工船」を芸術作品にしていると私には思われた。
 小林は治安維持法という世紀の悪法によってとらえられ虐殺された。小林は信念をまげず生き抜いた人である。私はその小林の生き方に敬意を表する。
 伊藤整がずっと小林のことが気になっていた理由がわかる気がする。

 
作文道場小林 多喜二(こばやし たきじ)。
1903年10月13日 - 1933年2月20日。
日本のプロレタリア文学の作家・小説家。現秋田県大館市生まれ。
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