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読書感想文
 
大仏次郎「霧笛(むてき)」を読む

 幕末に横浜が開港されると、横浜は外国人居留地となった。居留地の中は治外法権で、日本人は自由に居留地に入ることができなかった。居留地に入るためには関所を通らなければならない。現在、関内といわれている地名は、その地に関所があったことの名残である。
 居留地には西洋人が大勢住み、西洋風の家が立ち並び、居留地はさながら日本の中の異国といった感じである。この地で主に使われている言葉は英語であった。
 福沢諭吉は自らのオランダ語の力を試そうと、横浜にやってきた。居留地に入った福沢は愕然とする。建物の看板に書かれている文字が全く理解できなかったのである。居留地ではオランダ語は一切使われていなかった。福沢はあの言葉は英語であるらしいと直感で思った。オランダ語は世界で通用する言葉ではなく、その当時、世界の共通語は英語になっていたことを、福沢は理解する。あれだけ死ぬ思いで身に付けたオランダ語を放棄して、福沢は英語の勉強に邁進した。
 居留地ではイギオリス商人が幅をきかせた。横浜港にはイギリスの軍艦が停泊していて、居留地のイギリス人を守っていた。
 1862年、居留地の4人のイギリス人が悲惨な目に遭う。いわゆる生麦事件である。4人は幕府の規制を守らずに、東海道で乗馬を楽しんでいた。丁度そのとき、参勤交代で江戸から薩摩に向かう島津藩の大名行列と出会う。4人は日本のしきたりを知らなかったので、大名行列の中を馬に乗ったままで進んだ。この無礼に対して、供回りの藩士たちが4人を切りつけたのである。1人が死亡した。
 この事件はお互いに災難であったが、薩英戦争へと発展し、結局、この薩英戦争が薩摩藩に攘夷思想を捨てさせ、倒幕へと急回転させるのである。生麦事件が日本の近代化を早めたという皮肉な結果になった。
 明治になってからも居留地は独特な発展をした。種々の外国の商館が建てられ、たくさんの外人が住み、南京町もできた。日本郵船・横浜正金銀行などの日本の近代的な会社が設立された。居留地には外国人・日本人が入り乱れて生活し、独自の生活圏を築いた。そこではいろいろな事件が起こった。
 大仏次郎の「霧笛」は明治時代の横浜の居留地を舞台にした小説である。
 大仏次郎は「鞍馬天狗」シリーズでたいへん有名な作家である。鎌倉の大仏の裏に住んでいたので、ペンネームを大仏にしたといわれている。とにかく大仏は流行作家で、現代小説・時代小説などたくさんの小説を書いた。時代小説の1つが「霧笛」であった。大仏は横浜生まれで、横浜のホテルを仕事場にしていたので、横浜は庭も同然であった。

千代吉は東京から横浜に流れてきたまだ20歳そこそこの風来坊である。千代吉は居留地で、あるイギリス人から財布を掏り取ろうとしたが、そのイギリス人に捕まってしまった。警察に連れて行かれると思ったら、イギリス人の家のボーイにさせられた。イギリス人の名はクウパーといった。
 千代吉は喧嘩が強く、居留地一帯を縄張りにしているやくざの親分にも一目置かれるようになった。ある夜、千代吉は外国人専用の居酒屋で、お花というまだ18歳の娘と出会う。千代吉とお花はすぐに愛し合うようになった。
 お花は立派な洋館に住んでいた。お花がある大金持ちの妾であることはすぐにわかった。千代吉はお花を好きになればなるほどお花の旦那に嫉妬した。そして、いつしかその旦那がクウパーであることを知って、驚愕した。クウパーは自分の主人であり、恐い存在であったが、尊敬もしていた。クウパーは千代吉とお花が愛し合っていることを知り、千代吉をお花から遠ざけた。千代吉はクウパーの家を出た。
 一旦、千代吉はお花から遠ざかったが、再び、初めてお花と出会った居酒屋でお花に会った。お花の隣にはクウパーがいた。千代吉はクウパーをその店から追い出すことに成功し、お花を自分のものにした。お花は千代吉と一緒になれることを喜んだが、千代吉はクウパーが残していった拳銃でお花を撃ってしまう。

 「霧笛」は横浜の居留地ではかなく散ってしまった不幸な男と女の恋の物語である。

 
作文道場大仏(佛)次郎(おさらぎじろう)
 1897(明治30)年10月9日 - 1973(昭和48)年4月30日。横浜生れ。本名、野尻晴彦(のじりはるひこ)。東京府立一中、一高を経て、東京帝国大学法学部政治学科を卒業。教師となる。この時期にいろいろなペンネームを使って小説、翻訳、を書く。関東大震災後に小説家の道を歩む。『鞍馬天狗』シリーズの作者として有名ですが、時代小説、ノンフィクション、童話、新歌舞伎など幅広く手がけた。生地に近い港の見える丘公園に大佛次郎記念館がある。
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