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読書感想文
 
坪内逍遥「当世書生気質」を読む

早稲田大学構内に建っている坪内逍遥像 日本の近代文学は坪内逍遥から始まったといわれている。これはほぼ文学史の定説となっている。
 坪内は日本で初めて文学士になった人でもある。学士というのは大学を卒業したものの称で、坪内は東京大学文学部を卒業している。大学で文学を研究するのは当たり前のことであるが、坪内が大学に通っていた頃は違っていた。文学とは小説や詩などのことであるが、江戸時代の名残りを強く引きずっていた明治初期には、小説といえば江戸時代の戯作をさしていた。戯作とはおもしろい庶民向けの読み物のことで、とてもではないが大学で研究するようなものではなかった。
 坪内も小さい頃から戯作を読み漁っていたが、英語を勉強するに及んで、西洋の本を読むようになると、いろいろと感化された。特に、シェイクスピアには心を動かされ、小説とは何かがわかった気がした。そして、戯作とは違う真の小説とはこうであるという理論を纏めて論文として発表した。これが「小説神髄」である。この論文で、坪内は滝沢馬琴の作品を代表とする勧善懲悪の物語を否定し、小説とは人情そして風俗を描くべきだと主張した。
 坪内は自分の提唱した理論に裏打ちされた小説を書く必要を感じ、小説を書いた。それが「当世書生気質」である。
 「当世書生気質」は日本の近代文学の出発点になったといわれている作品であるが、私は、初めてこの作品を読んだとき、かなりがっかりしたのを覚えている。二葉亭四迷の「浮雲」の印象があまりにも強かったので、「当世書生気質」がどうしても近代小説だとは思えなかったのである。古臭い江戸時代の戯作のように思った。
 しかし、それから30年以上もたち、今「当世書生気質」を読み直してみると、なかなかおもしろいのである。それは、この作品が、色濃く江戸の戯作の伝統を受け継ぎながら、明治の文明開化の新しい風俗をうまく描いているからである。私はどこか為永春水を読んでいる感じがしないでもなかった。

 「当世書生気質」の主人公は小町田という書生(学生のこと)である。小町田にはお芳という妹がいた。小町田とお芳は血のつながりはなかった。幕末の上野の戦争で親と別れて孤児になったお芳を小町田の両親が面倒をみたのである。小町田とお芳は実の兄妹のように仲がよく一緒に遊んだ。ところが、小町田の家が没落して、お芳は止む無く小町田の家を出て、芸者の家に引き取られた。お芳は成長して田の次という名の売れっ子の芸者になった。
 物語は書生の小町田が王子の花見で客と一緒に来ていた田の字と偶然に出会うところから始まる。小町田と田の字はそれから恋仲になるが、小町田はそれが理由で学校を停学になる。小町田は将来を思い、田の字とは別れようと決心する。
 物語は小町田の書生仲間を中心として、明治初期の風俗を写実的に描いている。よく出てくるのが、牛鍋屋である。牛鍋というのは今でいうすき焼きのことであるが、書生たちは牛鍋屋で酒を飲んで食事をするのが通なことであると思っている。おきまりのように、牛鍋屋の賄いの女中に書生たちは上せあがってしまう。
 物語の最後、田の字が小町田の友人の守山の妹であることが判明する。守山の父親は元武士で由緒正しき家柄である。田の字は芸者の道から足を洗うことができた。

 坪内は「当世書生気質」の続編を書くつもりだったらしく、小町田と田の字がその後どうなるかは書かれていない。結局、続編は書かれなかった。
 私は山東京伝・式亭三馬・為永春水などの戯作が好きである。いわゆる江戸情緒なるものが好きなのかもしれない。「当世書生気質」も江戸情緒たっぷりの小説である。坪内は江戸の人情を大事にした人でもあった。

※:写真は、早稲田大学構内に建っている坪内逍遥像です。

坪内逍遥の手紙

※:写真は、熱海の旅館に飾っていた坪内逍遥の手紙です。

旧居双柿舎(そうししゃ)の近くにある逍遥の石碑

写真は、熱海にある坪内逍遥が、大正9年から昭和10年に亡くなるまでの15年間を
過ごした旧居双柿舎(そうししゃ)の近くにある逍遥の石碑です。

 
作文道場坪内逍遥(つぼうち しょうよう)
1859年6月22日(安政6年5月22日) -1935年(昭和10年)2月28日)。
美濃国加茂郡太田宿(現・岐阜県美濃加茂市)の生まれ。東京大学文学部政治科を卒業。小説家、評論家、翻訳家、劇作家。代表作に『小説神髄』『当世書生気質』およびシェイクスピア全集の翻訳があります。早稲田大学文学部創設者の一人です。
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